【デンマークで福祉機器の活用が進んでいる理由】デンマークは福祉機器先進国ではなく、分担して試行錯誤をしている国である

 
 

「高福祉」のイメージで知られるデンマークでも、社会の高齢化が進んでいます。WHO(世界保健機関)が2018年に発表した統計によると、男性79.3歳、女性83.2歳。日本の平均寿命男性81.1歳、女性87.1歳に比べると若干見劣りしますが、高齢化は確実に進行しています。高い税金で「高福祉」を実現しているデンマークにとって、高齢者の増加は社会保障費の増加につながる問題であり、国内で様々な取り組みが実施されています。


本記事では、「高福祉・高負担」のイメージで知られるデンマークが、限られた予算の中でどのように質の高い福祉サービスを提供しているかについて、テクノロジー普及の観点から解説します。


記事の内容は下記の通りです。


・デンマークが行った大規模な自治体改革

・デンマークで実施されている福祉機器検証プロジェクト

・人口が少なく、狭い国であることを利用した工夫


なお、弊社代表の山口は2015年〜2016年にデンマーク技術研究所にて福祉機器の評価研究を行っています。本記事はその際に得られた知見を基にしているものです。

デンマークで実施された大規模な自治体改革

 
d6fb7cfddd4eb6ec6a3a5bc2130cfcb0_s.jpg
 

デンマークでは2007年に、271の全国の地方自治体が98の基礎自治体に再編されるという大規模な行政改革が実施されました。この改革により、各基礎自治体が行政サービスの運営責任を負い、自らの財源と権限の元に市民の実情に適したサービスを提供することが義務付けられたのです。福祉をはじめとする行政サービスの責任の所在が明確化されたことで、各自治体は高齢化人口の増加と行政職員の賃金向上という課題解決に自ら取り組む必要に迫られました。



そこで各自治体は、全国自治体連合(KL)と呼ばれる組織を作り、業務改革の調査や自治体間の連携・情報共有の仕組みを構築しました。KLは各自治体の代表として、自治体への情報・サービス提供、自治体全体の予算交渉、自治体に共通する課題への提言などを行っています。


日本のような中央主導のトップダウン型の行政改革ではなく、各自治体の意見をまとめてボトムアップ式に国に提言するシステムは、デンマークのような小規模国家ならではのシステムだと考えられます。

デンマークで実施されている福祉機器検証プロジェクト

 
6b12df4c7ee240f1917365da859e949a_m.jpg
 

社会保障費の削減と不足する人材を補うために、デンマークでは福祉の現場に積極的にテクノロジーを取り入れようとする動きがあります。


例えば、現在のデンマーク各自治体では独自の福祉機器検証プロジェクトが行われています。検証プロジェクトの目的は対象の機器が福祉サービスの改善・効率化に資するか否かを判断するための材料を得ることであり、プロジェクトの結果は報告書の形で公開されています。KLもこれらの結果の収集と共有を進めており、福祉機器の利用効果や導入事例が体系的に蓄積されています。


もちろん、中には期待していた効果が見られなかった製品もありますが、そのような製品の情報は報告書で開示され、各自治体は福祉機器の導入を検討する際の資料として利用されています。その結果、悪い製品が市場から撤退し、良い製品のみが残るという市場原理が働いています。


人口が少なく、狭い国であることを利用した工夫

 
 

デンマークはEU加盟国であるため、EU圏内で流通している医療機器・福祉機器はデンマーク国内でも使用が可能です。しかし、EU全体で流通している、あるいは今後販売される福祉機器に対してデンマークの各自治体が検証に割けるリソースは微々たる物にすぎません。

デンマークでは、各自治体が分担・協力して福祉機器の効果検証と導入の可否判断をする事で、市場にある無数の福祉機器を効率的に探索、検証しようとしています。

例えば、デンマークで二番目に大きい都市であるオーフス市は「CareWare Japan」という福祉機器のビジネスマッチングイベントを開催しています。このイベントにより、各自治体の福祉課職員は既に実用化されている福祉機器の情報を一度に手に入れることができると共に、他自治体およびメーカーとの横のつながりを得ることが可能になっています。

まとめ

多数の実証試験を行っていて、福祉機器の先進国と思われがちなデンマークですが、このような取り組みが始まってまだ10年しか経っていません。現状、福祉機器の利用による劇的なブレイクスルーが起きたとは言い難いのが実情です。デンマークで普及している機器は、高齢者の移乗を補助する介助用リフターや、記録業務を効率化させるスマートフォン・タブレットによる電子カルテなどであると思われます。その一方、普及に至らなかった機器に関する報告書は常に蓄積されていて、これらは日本から見ても貴重な資料であることは間違いありません。

弊社では、デンマークの各自治体が公開している情報を調査し、日本語の報告書としてまとめるサービスを行っています。ご興味のある方は下記のボタンからお問い合わせください。

Guest User