【福祉機器はなぜ普及しないのか?】日本の福祉機器市場の課題と海外の取り組みについて
国内の多くのメーカー・大学等が積極的に開発するにも関わらず、なぜ最新の福祉機器が普及しないのでしょうか。
また、日本と同様に高齢化社会が進行する国は、どのようにして福祉機器というニッチな製品を普及させようとしているのでしょうか。
本記事では、このような疑問に答える形で、下記についてお話しします。
・「福祉機器」の提案には制約がなく、無限に提案が可能
・機器選定のリスクは全てユーザーが負っている
・日本の福祉機器市場の問題点
・消費者から販売業者への健全なフィードバックの重要性
この記事をお読みいただくことで、日本の福祉機器市場の問題点、および海外における福祉機器市場創出の取り組みを知ることができます。
弊社代表の山口は、日本・イタリア・デンマークで福祉機器の研究に携わった経験があり、本記事はその経験で得た知見が基になっております。
「福祉機器」の提案には制約がなく、無限に提案が可能
日本はものづくり系企業(製造業)が多く、またテクノロジーへの期待も高いため、企業や研究機関から福祉分野の新たなアイデアや新製品が次々に登場しています。国としても、日本の強みである製造業と福祉という市場をドッキングさせるために、ロボット介護機器の開発を促進させるプロジェクトを立ち上げています。
しかし、福祉機器には医療機器のように厳格な規制やコスト・ベネフィットの基準がありません。そのため、開発者側が「福祉機器」と名付ければほぼ無制限に新製品を提案する事ができてしまいます。
効果がはっきりしない「福祉機器」と名のついた製品が市場に出回るようになり、本当に効果のある、良い製品が埋もれてしまうということが起こっているのです。
機器選定のリスクは全てユーザーが負っている
このように、「福祉機器」と名付けられた製品は次々に市場に登場することになるのですが、ユーザーが購入を判断するための情報が不足しているため、機器選定のリスクをユーザーが負担しなければなりません。
例えば、新たな「福祉機器」が福祉関連のメディアに取り上げられたとしても、その福祉機器が下記のどの段階かという情報が不足している場合があります。
①まだアイデア段階である
②製品化されている
③販売実績があり実ユーザーがいる
②の段階であっても③の段階ではない場合、購入者はその商品の初期ユーザーにならなくてはなりません。すでに販売実績があり、使用者の評価が公開されていれば、より確からしい判断をすることができるので、②は③よりもリスクが高いと言えます。
また、③の段階であってもその情報が購入者の目に届かなければ、商品の評価がわからないので購入者が購入を控える可能性が高まります。
それでは、購入者でも製造者でもない第三者が製品の評価をしてくれないのでしょうか?
第三者による品質評価は行われない
ある福祉機器が「福祉用具」や「補装具」等の日本の制度上の公的給付対象になった場合、給付の規格を満たした後発の類似品が市場に出回ることになります。しかし、それらの製品に対して第三者による品質評価は行われません。
給付の窓口となる地方自治体では機器の良し悪しの判断はせず、申請が基準を満たしているかのみのチェックを行うだけです。また、機器選定に関わる義肢装具士、OT、福祉用具専門相談員等は「福祉機器の選定をする能力を有する」事になっていますが、毎年提案される新たな福祉機器や後発品を網羅して適切な福祉機器の選定ができる者は現実的には存在できないと思われます。
公益財団法人テクノエイド協会のように福祉機器の情報を積極的に発信している団体は存在しますが、運営に税金が当てられている場合、全ての製品を公平に取り扱う必要があるため、ユーザーの選定の助けになるような情報を発信することはできません。
ユーザーは、優劣が不明で横並びにされた製品の中から、自分のニーズに合った製品を一つ一つ調べていかなければならないのです。
一部の障害者等の消費者は、既に官制主導や開発者寄りのメディア情報は選択の参考とせず、ソーシャルネットワークやYouTube等のユーザー発信による情報を購入の参考にしています。これは広告の宣伝文句はあくまでその製品の存在を知るための手段として捉え、購入の参考にするのはあくまで中立の(あるいは自分と同じ立場の)他の消費者の声という、一般消費財と同じ現象が既に起きている事を示しています。
日本の福祉機器市場の問題点
以上を踏まえ、現状の日本の福祉機器市場の問題をまとめると次の通りです。
①「福祉機器」の提案には何の制約もなく、理論上無限に提案可能な事
②「認定機関」や「第三者機関」はそのリソース上全ての福祉機器をカバーする事ができない事
③②の「機関」に税金が投入されている場合、「全ての製品を公平に取り扱う」必要性が生じ、ユーザーによる選定の助けにならない事
消費者から販売業者への健全なフィードバック
現在の日本の福祉機器市場は上記の問題①〜③により、消費者から販売業者への健全なフィードバックが上手く回っていない状況であると言えます。この状況ではユーザーは「福祉機器を買い控える」あるいは「自身のリスクで福祉機器を買い、その結果生じる不利益は自身が負担する」という選択をせざるを得ません。
一方で福祉機器の情報共有が進むデンマークでは、福祉機器のレビューを福祉事業者(地方自治体)が積極的に発信するという仕組みができています。福祉事業者がレビューを発信し、他の自治体がそれを読み、有用だと判断すればそれを購入するという波及的な普及効果がそこには生まれているのです。
それに対し、日本ではあるユーザーがその製品を購入し満足したとしてもその情報が発信される事は殆どありません。例え発信されたとしても他の宣伝メディアとの信頼性の差が判別できず、波及的な普及効果が期待できないのです。
日本の福祉機器市場のボトルネックとなっているのは「ユーザー自身による評判」へのアクセスの難しさだと考えられます。無数の選択肢がある市場では他者による評判はユーザー自身による選択の労力を下げ、また競争力の劣る製品を市場から撤退させる淘汰圧を生み、健全な市場創出を助けるからです。
まとめ
次々に登場する新たな福祉機器が日本に普及しない理由は、消費者から販売業者(あるいはメーカー)へ健全なフィードバックがされていない点にあります。もちろん、デンマークのようにユーザーによる評価を効率的に普及させる仕組みは重要なのですが、国土面積や人口、制度上の違いがあるため、その取り組みをそのまま日本に当てはめることはできません。
弊社では、日本に沿った福祉機器の情報共有の場を作るため、福祉機器のレビューサイトである「福祉機器リンク」を立ち上げます。福祉機器に関わらず、障害者に便利な一般商品のレビューも受け付けておりますので、皆様のご協力をお待ちしております。