【日本の福祉機器を取り巻く現状】福祉機器コンサルタントが解説します

 
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先日、日本の福祉機器市場の課題を解説する下記の記事を公開しました。



【福祉機器はなぜ普及しないのか?】日本の福祉機器市場の課題と海外の取り組みについて



今回は、「福祉サービス」という切り口から、日本の福祉機器を取り巻く現状について解説します。

記事の内容は下記の通りです。


・日本の福祉サービスの提供方式

・日本式福祉サービスのメリット

・日本式福祉サービスのデメリット

・デンマークの福祉サービスの特徴

・まとめ


本記事は、福祉機器に関するコンサルティング会社である弊社が、日本の福祉機器市場を分析したものです。




日本における福祉サービスの提供方式

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日本の福祉サービスは、公的な財源(税金、保険)の給付を受けた民間の法人(社会福祉法人、株式会社、NPO法人)によって提供されています。


これは民間の参入を解禁する事で社会情勢や需要の変化に柔軟に対応できる事業者を確保しつつ、民間事業者間の市場競争によるサービスの質の向上と価格の最適化を狙った戦略です。


各福祉事業者は厚生労働省によって内容と単価が定められたサービスを提供し、その料金を利用者本人、地方自治体、国の三者からそれぞれ徴収することで収入を得ています。福祉機器の給付や補助についても同様で、基本的には厚生労働省の定めた品目に該当する機器だけが公的な補助の対象になります。


日本の福祉サービスのメリット

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この方式のメリットは、日本全国どこにいても同じ単価で同じメニューのサービス、機器の給付が受けられることです。例えば、足腰に障害がある方が車椅子の貸与を受ける場合、どのレンタル業者からサービスの提供を受けたとしても、国の定める基準を超えた金額を請求されることはありません。


また、費用の請求先が明確になっていることで、民間の事業者の参入が促されることも、もう一つのメリットです。市場競争によって、サービスの品質が一定に保たれることに繋がります。



日本の福祉サービスのデメリット

一方デメリットは、利用者が本当に求めるサービスや機器が公的給付の対象外だった場合に生じます。


福祉事業者が採算度外視でサービスを提供したり、利用者が完全自己負担したり、あるいは本当に必要なサービス・機器をあきらめて給付対象の中から選ぶ、といった事が起こり得るのです。


これは社会的な要求の変化や新技術・新製品の登場が日々絶え間なく起こるのに対し、行政が定める単価やルール作りは担当省庁や職員の限られた時間の中でしか行えないため、常に後手に回らざるを得ない事に起因しています。


またもう一つのデメリットは、より良いサービスや機器を提供するインセンティブが福祉事業者や機器メーカーに働かず、新たな工夫や改善の産まれづらい硬直的・受動的なマインドセットに陥ることが懸念されることです。


例えば、介護保険を利用して介護サービスを受けている高齢者がリハビリにより自立生活可能な状態まで改善した場合、国全体としては介護費用や医療費の抑制といった財政的なメリットがあっても、介護事業者にはインセンティブが発生しません。現状、被保険者が介護保険から「卒業」しても、事業者にはメリットも生まれていないのです。




デンマークの福祉サービスの特徴

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一方、海外ではどうでしょうか。

比較対象としてデンマークの方式を紹介します。

デンマークでは、各自治体が福祉サービスの事業者であることが大きな特徴です。そのため、各自治体が自身の予算・裁量でサービス内容を決定しています。予算や収支を自治体レベルで運営しているため、リハビリによる医療費抑制といった金銭的インセンティブは自治体自身が受け取ることができるのです。

例えば、機能回復などで良い結果を出せば出すほど、自治体の社会保障費の削減に繋がります。


まとめ

・日本式福祉サービスのメリットは、日本全国どこにいても同じ単価で同じメニューのサービス、機器の給付が受けられること

・デメリットは、公的給付対象外のサービスや機器に対応できないこと

・高齢者の「自立」を実現しても、事業者にはメリットがない

・デンマークは各自治体が福祉サービスを提供しているため、リハビリによる医療費削減のインセンティブを自治体自信が受け取ることができる


日本はその国土の広さや人口の多さから、公平・公正な福祉サービスの提供のため中央行政によるトップダウン方式を取っています。

一方デンマークでは、変化する社会の需要に答え、新たな福祉サービスの提供方式を各自治体が探して共有するボトムアップ方式を採用しています。

日本にデンマークの方式を直接持ち込んでも期待した効果は発揮されないと思いますが、例えば、デンマーク方式の一部を日本式に加工して取り入れることにより、両者の特性を併せ持った社会を実現できるのではないでしょうか。



弊社のYouTubeチャンネルでは、デンマークにおける福祉機器普及の取り組みを紹介しております。

 
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